【前号からの続きです。併せてご覧下さい】
「自宅はいいとして、アパートも親父に代わって管理とか色々やらないといけないし・・・」
「お兄さん達が何か言って来たら、どうしようかしら」
認知症の疑いのある父・義彦さん(仮名)の相続を考えると、息子の内村和彦さん(仮名)と妻の明子さん(仮名)の悩みは尽きません。義彦さんは自宅の土地建物のほか賃貸アパートも所有していますが、誰かが義彦さんの代わりに管理しないといけません。また、和彦さんとは長らく疎遠な3人のきょうだいが相続に口を出し、アパートの所有権を要求してくるかも知れません。かと言って土地や建物を4人で共同名義にしてしまうと、名義人の全員が同意しないと処分したくても出来ませんし、さらに二次、三次と相続を続けて名義人が増えてしまうと、ますます大変なことになってしまいます。
ではここで、和彦さんが受託者として、【図一】のような義彦さんのアパートを管理・運用する「家族信託」を考えてみましょう。
信託と聞くと信託銀行などを思い浮かべると思われますが、「他者から財産を譲り受けて管理・運用し、それによって得られた利益を分配する」という基本的な仕組みは同じです。信託銀行が営利行為として行う信託(商事信託)に対して営利性のない信託を民事信託と言い、家族で行う民事信託を家族信託と呼ぶこともあります。
本来は信託の当事者には、信託財産から利益を得る「受益者」がいるのですが、信託では三者それぞれが別人でなければならない必要はありませんし、また、義彦さんの死後、【図二】のようにすれば、アパートの所有権をスムーズに移し、かつ3人のきょうだいの相続人としての権利も満たすことが可能となります。
信託の契約は自由度が高く、実質的に遺言書を書くのと同様の効果を生じさせることもできます。しかし、受託者には様々な法的責任がありますし、内容を誤ると却って過大な税負担が生じるリスクもありますので、くれぐれも慎重な活用をお薦めします。
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